【書評】南元子『近代日本の幼児教育における劇活動の意義と変遷』について

著者・南元子さんに直接の面識はありませんが、以前から論文などを拝見していました。
いつかお会いしたいと思っています。
今朝「積ん読消化」なんてツイートしてしまってすみませんでした。 

博論の再編集なのでしょうか。そうとは書かれてないですが、本の規模としてはそんな感じでした。

ままごとあそびなどを考えればわかるように、
小さな子どもが演劇的な要素を含んだ遊びをすることはほとんど自然発生的に起きることであって、
それをして演劇教育と言おうとするのであれば事柄自体は近代以前から起きていたわけですが、
演劇活動、ここでは劇活動と言われていますが、それが教育と結びついたのは、まさに教育という概念が日本に導入された近代以降であると言って間違いないでしょう。

特に世界的に新教育運動が盛んになり始めた、日本が大正時代であったころには、
日本における演劇改良運動とも結びつき、また当時の日本人の思想が極めて観念的なものに傾いていたこともあって、
専門家、非専門家の隔て無く演劇活動は盛んに行われました。

そこで、子どもが学校や家庭で演劇をすること、子どもにさせることに意義があるか、その際には何に留意すべきか、などの議論も当然起きるわけで、
その際の中心的な論客となったのは坪内逍遥と小原國芳でした。

よって、彼らが議論を始めた頃、何が起きていたのか、これら以外にはどのような議論があったのか、またありえたのか、は、
演劇教育研究上重要な論点となるわけですが、 
これまで、この時代の演劇教育研究についての史料整理に本格的に取り組んだのは冨田博之のみで、
それも未完に終わっていました。

この本では、対象を幼児にしぼってはいるものの、
この時代の演劇教育観について丁寧に精密に史料を整理した成果がまとめられています。 

このことについて論じ定説を築いた人がいるわけではないので、
何か重要な論が覆されるというようなドラマティックさはありませんが、
それは南の論こそがこれから演劇教育史研究における定説となる可能性を持っているということであり、
十分にそれに値する精密さで史料整理が行われていると感じました。