「ニーブラ大陸 発見記」講評

ある探検家と医者は、ペアを組んで冒険をしている。冒険の目的は、地図を作ることである。
二人はある日、島を発見する。その島の地図を作ろうと上陸するが、島の住民たちは彼女たちを受け入れない。二人は自分たちが敵ではないことを必死でアピールするが、住人たちはそれを信じない。
島の住民たちは狩りをして暮らしているが、そのうちの一人が怪我をしてしまう。怪我はひどく、医者はすぐにでも治療が必要だと訴える。しかし、島の住民たちはその申し出を拒否する。
怪我は日に日に悪くなる。いよいよ死んでしまうか、という時に、島の住民たちは医者と探検家に助けを求めることを決意する。医者はよろこんで怪我を治療し、島の住民たちは彼等に地図を作らせることを許可する。
探検家は島の地図を完成させた偉大な探検家として、医者は優秀な医者として名をあげ、彼等を受け入れた島の住民は島の統治者として大成する。

サラッとやっているけれどものすごい話である。地図を作る探検家、その探検家側の持っている技術が先住民の危機を救い、先住民は豊かになる、探検家もそのことによって名声を得る。あきらかなコロニアリズムである。先住民が怪我をし、命の危機に瀕しているとはいえ、その命を救うのは探検家たちのもたらした文明である。探検家は文明を提供し、その見返りとして「地図を作る」という植民地支配を要求する。その支配を受け入れることを決めた一部の先住民は、その地域の現場統治者となって、支配者の実質的手下となる。その後、島の中では先住民の中に統治者とその仲間や親類縁者と、それ以外の奴隷的扱いを受ける植民地住人という格差が生まれ、支配者/被支配者という対立構造を生み、やがて世界を巻き込んだ強大かつ陰湿な対立構造へと発展……

……しなそうに見える、というのが、この「ニーブラ大陸 発見記」の評価すべきポイントである。

なんでこんな危ない話をやるんだろう、と一瞬考えさせられた。しかし、この「ニーブラ大陸 発見記」においては、島の住民たちは文明を持たない人々として描かれていたわけではけっしてなかった、ということが重要な点であったように思う。作中、島の住民たちは「インディアン」と呼ばれ、すずらんテープで作ったいわゆる腰ミノ的な衣装を身につけ、ひょうきんな身振りや話し方をする。見た目は典型的な「未開の人々」である。しかし、彼等は日本語でセリフを言い、探検家たちと不自由なく意思疎通する。島の住民たちは探検家たちと最低限の意思疎通をしたうえで、信用しない、地図を作るだけなんて嘘だ、自分たちを支配するつもりに違いない、という結論を出して拒否している。その意味で、観客の前で彼等は文明/未開として描かれているのではなく、あくまでも別な文化を持った人間同士として描かれているのである。

インターネットもスマートフォンもアプリもGoogleもある現代において、言語を共有できない、ということが重大な問題になる場面はもはやそうないのかもしれない。ちょっとした旅行会話くらいなら、グーグル先生に聞けば、たいていの言語ならすぐに翻訳してくれるだろう。むしろ問題になるのは、言語の背景に潜んでいる文化的差異や思想である。言語がわからないから理解し合えない、協力しあえないのではなく、わたしたちは今、もっと深いところで、人間同士であるにもかかわらず理解しあえないことを痛感させられている。さらに、理解し合えたところで、生活を共にすることができないことがわかるだけ。利害関係にあることが確認できるだけ。理解し合えないからではなく、お互いの利害が食い違うことがはっきり確認できてしまうから、時には排除しあうしかない。今、わたしたちが生きている世界は、そんな世界なのかもしれない。

「ニーブラ大陸 発見記」において、探検家たちと島の住民たちは、目の前の命を助けたい、というきわめてプリミティブな願望のもとに手を取り合う。探検家たちは、現代的な陵辱的方法(勝手に人工衛星を飛ばすとか)ではなく、あくまでも現地の人々の許可を得たうえで地図を作る。彼等はお互いの要求がいかなるものなのかを言語を介して確認し合った上で、協力しあう。仲間の命を助けて欲しいとやってくる島の住人たちは、探検家たちに必要以上にへりくだったりはしない。医療を提供する、地図を作ることを許可する、あくまでも契約的な、利害関係である。その利害の一致が、目の前にある生命の危機、という人間の根源的な問題によってもたらされたことは象徴的であった。目の前の生命が危機にさらされる時、そしてそれを助ける手段を持っている時、わたしたちは助けずにはいられない。そんな人間の根源的な営みの前に、やれコロニアリズムだ、支配だ、権力だ、なんて議論を持ち込むのはナンセンスだ。そんなことよりも、言語を介して他文化との関係を結び、ともに生きることを選択できる島の住民たちが、地図を作られた後の世界で、他の国や地域とどのような関係を築いていくのか。彼等が統治する島ならば、もしかしたら良好な世界が待っているのではないのか。そんなことを期待させられるのである。

しかしニーブラ、って、やっぱり元ネタはバンビーノかな。